溶融石英(フューズドシリカ)レンズが選ばれる理由
UV光学・レーザー・精密計測を支える「次世代素材」
製造現場の高精度化が進むなかで、光学材料に求められる条件は年々厳しくなっています。
その中でも、溶融石英(フューズドシリカ)レンズは、UV装置、レーザー加工機、精密計測システムなど、 幅広い分野で「信頼できる素材」として選ばれ続けています。
本コラムでは、溶融石英レンズが支持される理由と、産業界の最新トレンドをわかりやすくまとめます。
1. UV〜近赤外まで透過する広帯域特性
溶融石英は 深紫外(約180〜200 nm)から可視・近赤外(〜2 µm) まで高い透過率を持つことが 知られています。
一般的な光学ガラスでは透過が落ちるUV領域でも、溶融石英はクリアな光を通すため、UV検査装置、 露光装置、紫外レーザー光学で欠かせない素材です。
2. 温度変化に強い「低熱膨張材料」
線膨張係数は 約 5×10⁻⁷ /K と非常に小さく、温度変動によるレンズ形状や焦点位置の変化が ほとんどありません。
精密機器や3D計測など、安定した光学性能が要求される装置に最適です。
3. 高出力レーザーに適した低吸収性
溶融石英は光の吸収が小さく、レーザー照射時に発生する熱レンズ化(ビームが歪む現象)が起こりにくい 特徴があります。
そのため、
- レーザー加工機
- レーザー距離計
- レーザー走査アルゴリズムを使う検査装置
などで広く採用されています。
4. 優れた化学的・熱的安定性
多くの酸・アルカリに対して安定しており、高温環境でも物性変化が小さいのが特徴です。
唯一、フッ化水素酸(HF)には侵される点はよく知られていますが、それ以外の環境には非常に強く、
医療分析装置・UV光源・高温機器の光学窓材として活躍しています。
5. 均質性の高い光学素材
内部の屈折率ゆらぎが少ないため、光の歪みが発生しにくく、干渉計や分光器などの高精度光学系でも 安定した性能を発揮します。
6. 研磨性とコーティング適性が高い
溶融石英は鏡面研磨による高精度面が得やすく、反射防止膜(AR coating)や多層膜も安定して成膜できます。
そのため、装置ごとの要求に合わせて光学特性を最適化しやすい素材です。
【業界トレンド】溶融石英レンズの需要はなぜ伸びているのか?
● UV化の進展で用途が拡大
製造業の検査工程・硬化工程ではUV光が多く使われるようになり、
深紫外〜UV光学レンズの需要が自然に増えています。
● レーザー加工の高出力化
レーザーが高出力化するほど、低吸収材料である溶融石英の必要性が高まります。
レーザーマーキング・微細加工・距離計測など、様々な装置で採用が進んでいます。
● 高精度計測で「低熱膨張素材」への移行
3D計測、半導体検査、光学検査装置では、温度変動による誤差が問題になりやすく、
温度安定性の高い溶融石英が選ばれやすい傾向があります。
● 高純度グレードの利用増加
科学分析装置や半導体関連では、
不純物の少ない高純度溶融石英の採用が増えており、さらに高い光学性能が求められています。
まとめ:なぜ溶融石英(フューズドシリカ)レンズなのか
溶融石英は、
- UV〜IRまでの広い透過帯域
- 低熱膨張
- 高耐レーザー性
- 化学的・熱的安定性
- 高い光学均質性
- コーティング適性の高さ
といった特徴を兼ね備えた「総合性能の高い光学素材」です。
UV光学、レーザー、精密計測、医療分野など、高精度が求められる最新の光学システムにとって 不可欠な材料として、今後も確かな需要が続くと考えられます


